塩谷哲ピアノ・コンサート「solo salt 2012」(名古屋・HITOMIホール・2012/9/29)

塩谷哲ピアノ・コンサート「solo salt 2012」
日時:2012年9月29日(土) 17:35~19:10
会場:名古屋・HITOMIホール
出演:塩谷哲

【演奏曲目】

第一部
1.Morning Bliss
2.Do You Still Care?
3.Bud Powell / Chick Corea
4.Moon River / 映画音楽
5.あこがれのリオデジャネイロ

第二部
6.Better Days Ahead / Pat Metheny
7.即興演奏
8.Autumn Leaves / スタンダード
9.la pluie
10.Someday My Prince Will Come / 映画音楽
11.Forest

アンコール
12.Heat of Mind

アンコール
13.Preciousness

名古屋市千種区のHITOMIホールでの初ライブ。
今年6月にできたそうです。

実はホールのサイトの地図がアバウトで、友達も迷ったそうです。
私は名古屋駅からタクシーで行きました。
運転手さん、迷いました。
ホールの事務所に電話で聞いてくれて、なんとか到着。
狭い路地を入っていくので「こりゃわからんわ」と嘆いていました。
これからHITOMIホールに来られる方は要注意です!

ホールはビルの5階。
エレベーターで上がってすぐエントランスです。
東京の白寿ホールに似た感じかな。
白寿ほど広くないけどね。

ホールは客席に向かってほぼ円形。
サイトによると110席。
ステージが一段高い他は全てフラットな空間です。
床も壁も木造。天井の機材を吊り下げているのも木。
アットホームで、いかにも音が良さそう。

ピアノの後ろにも席が設けられていて、ソルトさんは登場して開口一番
「近いな」

第一部
1.Morning Bliss

やっぱり音がいいです。
だからなのか、今まで聴いたことがない「Morning Bliss」
絶えず音が鳴っている感じ。
この曲には珍しい強めの音も出てきました。
それだけ響いていたということかな。

ゆったりと流れていくところ。
ソルトさんは気持ちよさそうな顔です。

展開中もメロディの最初のフレーズが何度も織り込まれて、こういう「Morning Bliss」は初めてのような。

MC

・(曲が終わって入ってきたお客さんに)いらっしゃいませ。
・ピアノがステージから客席にはみ出してるでしょ。置く場所によって響きが変わるのでいろいろ試してみたんです。壁にくっつけて置いてみたりもして。
・でももう音が変わってきています。いつも言うことですが、皆さんの服や気によって響きが変わるんです。
・このホールは今日が初めて。木で統一されていますね。床も椅子も壁も。森の中みたい。山小屋で弾いてるみたいです。
・1曲目は「Morning Bliss」最初からとてつもなく変な世界に入り込んでしまいました。最後にようやく帰ってきました。
・名古屋には結構来てます。今年の2月にも、2010年にも。そのときの演奏リストを出してもらってここにあります。今日はそのときの曲とかぶらないようにします。でも同じ曲を弾いてしまうかもしれませんが、それはそういう気分だったということで。
・次の曲は自由な、ジャズっぽくもあるし、聴き方によっては演歌に聞こえるかもしれません。

2.Do You Still Care?

今日の「Do You Still Care?」は秀逸でした。
音の響き、それに影響されてどんどん弾くソルトさん。
その世界にすっかり引き込まれました。
ソロピアノでここまで表現できるのか!というくらい。

いつもより音がたくさん詰まってるというのがベースにあって、その上にいろんな要素が顔を出してきました。
素早く刻まれた音であったり、フレーズの後追いであったり、少しジャズっぽくなったり、跳ねたような音であったり。
自由自在でしたね。
「ホントに天から降りてきた音をそのまま弾いてるんだな」と感じました。

佳境にさしかかって終わりへと向かうのかな、と思ってからもまだまだ続く佳境。
ソルトさんも終わりたくなかったのでしょう。
そこからの演奏がまた素晴らしくて、息を飲みました。
うまく書けなくてすみません。
この曲がもっと好きになりました。

3.Bud Powell / Chick Corea

いきなりのメロディがいいです!
前曲のはじけ具合を引き継いだよう。

展開に入って、低音、高音、リズムに乗って敷き詰められていく音。
とっても心地いい。

この曲、”決め”のフレーズがあります。
遊んできても必ずそこに帰ってくるフレーズ。
(わかりませんよね。すみません)
ソルトさんはきっとそういう曲が好きだろうし、私も好きです。
その”決め”がいつにも増して際立っているような。
とにかく楽しい!

ピアノをやめて手を叩き出しました。
ピアノの枠も。
ついには床も手で!(←これは初めて見ました)
それが不自然ではないのです。
タイミングがいいです。
こういう”パーカッション”の入れ方も進化しています。
1コーラス分くらい叩いてました。

エンドに向けてメロディのリピート。
繰り返し出てくる”決め”。
自由です。解き放たれています。
もう一度書きますが、本当に楽しかった!

MC

・この曲は前向きになれる曲です。好きなんです。
・もう35分も経ったのにまだ3曲しかやってない!弾いてたら本当に楽しくなってきます
・いろんな所を叩きました。ボクは元々ドラマー志望だったんです。太鼓を叩くと血が騒ぎます。祭りでは太鼓が叩かれるので日本人はそういうようにできてるんじゃないでしょうか?
・デラルスのときによく聞かれたのが「日本人なのになぜサルサをやってるんだ?」ということ。あのリズムやグルーブは日本人でも体が動きますよ。ラテン音楽は歴史が古いので、それは人間固有のものかもしれません
・次はみなさんご存じの曲です

4.Moon River / 映画音楽

打って変わってこの曲で落ち着きました。
シンプルで本当にいい曲です。

やさしい音に包まれたかと思えば力強くなって、またやさしくなって、それから一段と強くなって・・・。
引きつけるなあ、ソルトさん。
聴くのは何度目かですが、そのたびに安心感、というか世界観?が増してきてる気がします。

MC

・名曲は名曲ですねえ。神経集中して聴いてましたね。
・一部最後の曲はみんな立ち上がって順番に踊って参加できる曲にしましょう。
・ブラジルの音というのはグッときます。(~~~とブラジルへの思いを語る)
・でも実は行ったことがないんです!(客席どよめく)ブラジルって文化圏が違うんですよね。
・では「あこがれのリオデジャネイロ」という曲を。「あこがれのハワイ航路」のパロディなんですけど。(客席から「え!」の声)知らなかったですか?そうなんですよ。曲は全然似てませんよ!
・もう「あこがれのハワイ航路」が通じないんです。こないだ松本和将君とコンサートをやって、松本君にクラシックをいっぱい弾かされるのでちゃんと練習しとかないといけないコンサートなんですけど、そのかわりボクは彼にアドリブをいっぱい弾かせるんです(笑)。そこでも「ハワイ航路」の話をしたら、松本君は知りませんでした。

5.あこがれのリオデジャネイロ

いきなりメロディから入りました。
いつもこうだったかな?
久しぶりに聴くような。

オリジナルにわりと近い感じです。
でも展開していくうちにいろいろ出てきました。
自由です。なんか安心感の上に遊ぶピアノ、みたいな。

強弱がきいたメロディ、盛り上がりながらのリピート。
いいですねえ、やっぱり。

少し長めのブレスの後は、オルゴールのような高音でスローに。
かわいく「ピピン♪」と鳴ってエンドです。
笑うソルトさん。

(第一部 18:33終了。15分間休憩)

第二部

第一部と同じように上手(ステージに向かって右手)のドアが開いたのに、今度は下手から出てきたソルトさん。
今日もやったか!

・そこ(ステージの背面)からも出て来れないかなあ?そこ、開きます?(笑)

6.Better Days Ahead / Pat Metheny

最近のソロでよく弾かれる曲です。
YouTubeで見るとライル・メイズのピアノがいいですよね。

ソルトさんもメロディアスで流れるようなピアノ。
歌っているみたい。
ソルトさんらしい音や運びも混ざりながら、この曲が弾き込まれていく過程が好きです。

「Keep Smiling!」っぽくなったところもありながら、最後まで歌うピアノ。
響きの良さと相まって、とても心地よかったです。

MC

・コードがよく変わる曲でした。
・実はこの春から、卒業もしなかったのに音大のジャズ科で教えてまして、なぜボクがジャズ科なのか?
・山下洋輔さんが急にやってきてセッションやって「イエーイ」なんてやって帰って行ったり。彼は去年教えてたんですね。
・今年は小曽根さんが主任教授で、主任というか名誉教授で。「ソルト頼む!」と言われまして。
・学生に言ってることは2つ。「自分の音を出す」と「自由になる」ということ。
・自由になるのが難しいらしくて、「即興してみなさい!黒鍵だけで即興してみなさい!」なんて言っていじめてます(笑)
・別に白鍵だけでもいいんですが、黒の方が目立ってるからいいかなあ、と思って。
・次は即興をやるんですが、じゃあ、黒鍵だけでやってみましょうか。最初は黒だけで弾いて、どうしても我慢できなくなったら白も弾きます。

7.即興演奏

力強く始まりました。
黒鍵だけだとこうなるのでしょうか。
会場の響きの良さも関係しているのだと思います。

少し中華っぽいニュアンスもあったりして、まだ強い世界がそこにあります。
しかし徐々にゆるやか~に。
(ここから白鍵も参加したのかな?手元が見えませんでした)
でも形はあります。
音の響きの世界を十分楽しんでいるようなソルトさん。

即興演奏のレポートはいつも難しいです。
こんなのでごめんなさい。

終わってひと言「響きますね-」

8.Autumn Leaves / スタンダード

しばらくこの曲だとわかりませんでした。
メロディアスな響き。
低音も徐々に印象的に顔を出して、右手は歌っています。
ここでやっと「枯葉」のメロディ。

低音がグッときます。
ソルトさんからも声が漏れています。
右手はホントにすごいことになってきています。
♪枯葉よ~のフレーズがときどき混じりながらも、もう超絶のプレイ。

展開は大きめにゆったりとなったのですが、またやっぱり思い出したかのように早いメロディ進行。
この会場で、このピアノで枯葉を弾くとこうなるのですね。
いや、ソルトさんのそのときの気持ちによるところが大きいのだろうけど、今日はこうなったのですね。

シンプルな曲を自分の世界でこうやって弾き込んで・・・、とてつもない表現力だなと感じました。
ぜひもう一度聴きたい!

MC

・台風が来てるみたいですね。急に寒くなってきました。毛穴を閉めなきゃ。いろんなものを閉めるトレーニングをしてます。
・弾かないといけないのに逆らって喋ってますが。昔から杓子定規なのが嫌いなんです。
・小学生のときの写真を見ると冬でも半ズボンで写ってるんです。他の子と同じなのが嫌いで、長ズボンでもまくし上げたりして。落ち着くときが来るのかと思ってました。
・次の曲はボクが前世パリジャンであったことを裏付ける曲です。しとしと降る雨をイメージした曲。曇りガラスに雨粒が付いて、その雨粒を通して見える漠然とした外の世界・・・。フランスのフォーレになった気分で。

9.la pluie

「枯葉」からこの曲への流れ。
途中のMCで脱線しそうなとこもあったけど(笑)、スーッと入ってきました。

ゾクゾクしたイントロ。
雨は激しくなったり小降りになったり、止み間も一瞬あったり。

ソルトさんは上を向いて、天から降りてくる音をそのまま弾いている様子。
思った通りの音が出せることに近づいてきて、その自信も確かなものになってきた・・・というのを強烈に感じました。
最近ソロコンサートに来るたびに、これは感じます。

佳境に差し掛かって強い雨、響き渡る音。
全体を包み込んで引き込む力。
そこから余韻の残るエンディングでした。

MC

・(演奏に)入り込んでしまいました。パリらしくなくなりましたね。
・次は軽い曲を。ご存じかな?

10.Someday My Prince Will Come / 映画音楽

MCの通り、軽やかに始まりました。
楽しい曲です。

攻めて弾くところと抑えるところ。
長~いブレス。それを待つ客席。
今日も一体感バッチリである証拠です。
みんな、引き込まれて聴いています。

11.Forest

わーーーっと思いました。好きな曲です。
メロディが聞こえてウルッときます。

今日は音が強めです。よく響いています。
展開していく森の強くなるところが特に印象に残りました。

普段なら優しい音も、今日は強め。
この曲の魅力である強さと優しさのコントラストが、ちょっときいてないかな、と私は感じました。
(その理由が後でわかることになります)

アンコール

MC

・まさか本編があの曲で終わるとは思わなかったでしょ?(笑)♪ジャン~と終わるだけがコンサートじゃないんですよ。
・アンコールはパリジャンですけどラテン系の曲を。パリジャンでも熱くなるところを楽しんでください。

12.Heat of Mind

弦をはじいて鳴らしています。
この姿もすっかり自然になってきました。
メロディに行きかけて膝をたたいたり。
鳴らせるものは何でも鳴らす?

そしてやがてメロディへ。
なんか、ゾクッときてしまいました。好きなんです。
足踏みしながら、手も大きくたたきながら、進んでいきます。

展開に入って、じわじわ盛り上がってきます。
この、じわじわ感、ほとばしる熱さ感がいいんです。
この曲たる所以。
低音のリフがきいています。

本当にじわじわじわじわ情熱的に。
ピアノ1台とは思えない世界へ。
時間をかけて上り詰めます。

そしてエンディング。
残る余韻。
今日も「Heat of Mind」でした。

ダブルアンコール

上手のドアを少し開けるというフェイントをして、また下手から登場。

MC

・言っとかないといけないことがありました。名古屋のブルーノートの10周年企画で SALT&SUGAR のライブを12月にやります。
・竹善は今グラスゴーに行ってるのかな?新アルバムのジャケット撮影。痩せたそうです。あの人、痩せては戻り痩せては戻りしてるんです。積算したら痩せた体重は100キロ以上になるらしいですよ(笑)。
・ピアノ弾いてたらダイエットになるんですよ。今日も声が出てたでしょ。声で弾いてるんです。ダイエットする目的でピアノ弾くんじゃないんですけど。

・一部と二部で違ってることがあります。何でしょう?
・(客席から「カーテン」の声)そう、ステージの両脇にあるカーテンを開けてみたんです。一部では閉まってました。音の響きを変えようと思って。
(私はカーテンがあるのは知っていたものの、開いたのには気づきませんでした。
・では、最後の曲を。これもしばらく弾いてなかったです。音楽への感謝の気持ちを表した曲です。

13.Preciousness

ソロの最後は必ずこれ、という時期がありました。
そういえば久しぶりです。

音の響きがいいせいか、いつもより力強く聞こえます。
一音一音丁寧な演奏。
音の間からソルトさんの息づかいが漏れてきます。

深い余韻を残して、コンサート終了。

(19:10 終了)

いいホールを見つけてきますね、ソルトさん。
きれいで、木に包まれて、音が良くて、アットホームで。

会場によって弾かされている、感じたままに弾いている、という印象でした。
ソロ・コンサートも回を重ねてくるうちに、それが次第に自然になってきて、聴く側もソルトさんのそのようなスタンスを理解できてきて、それらが会場の雰囲気とミックスされて一期一会のものが創られていく。
そんな状態でしょうか。

私は第一部の前半から、いつもよりアグレッシブな音が感じられて、やっぱり来てよかった!と思いました。
スタンダードでも弾き手の世界がちゃんと形作られています。
その上で、いい曲だなあと再認識することができるのも、なんかいい。

第二部でカーテンを開けたのは、もっと響かせたかったからだそうです。(サイン会で聞きました)
私は個人的には第一部の方がしっくりきました。二部の後半は大きすぎたかな?
聴く場所によっても変わってくるよね、とソルトさん。

一回こっきりしか出会えないその日のソロピアノ。
これが魅力なんです。

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