「塩谷哲 ピアノコンサート 2010 in Hakuju」
日時:2010年10月30日(土)18:06~20:31(休憩16分)
会場:東京・白寿ホール
出演:塩谷哲
白寿ホール2日目(1日目のレポートはこちら)
【演奏曲目】
曲名 | 作曲者 | 主な収録アルバム | |
---|---|---|---|
01 | Passage | 塩谷哲 | 「トリオっ!」 |
02 | Always And Forever | Pat Metheny | Pat Metheny「Secret Story」 |
03 | Mas Que Nada | Jorge Ben | Sergio Mendes 「Sergio Mendes & Brasil ’66」 |
04 | I Can’t Get Started With You (言い出しかねて) |
Vernon Duke | Anita O’Day 「This Is Anita」 |
05 | Keep Smiling! | 塩谷哲 | 「SALT」「PIANIZMIX」 |
06 | Better Days Ahead | Pat Metheny | Pat Metheny Group 「Letter From Home」 |
(休憩) | |||
07 | Happy-Go-Lucky | 塩谷哲 | 「SALT III」 |
08 | Jerash | 塩谷哲 | FOUR of a KIND 「FOUR of a KIND II」 |
09 | Hymn To Freedom (自由への賛歌) |
Oscar Peterson | Oscar Peterson Trio 「Night Train」 |
10 | 即興演奏 | 塩谷哲 | (未収録) |
11 | Manteca | Dizzy Gillespie | Dizzy Gillespie 「MANTECA」 |
(アンコール) | |||
12 | Forest | 塩谷哲 | 「SALT III」 |
(ダブルアンコール) | |||
13 | Three Views Of A Secret | Jaco Pastrious | 「solo piano = solo salt」 |
【曲別感想、おおよそのMC項目】
(18:06)
白寿ホールでのソロ2日目です。
ソルトさんは黒い十字をあしらった白いシャツと、黒いズボンで登場。
今日も「正装」です。
1.Passage
テンポのいいイントロのリピートからメロディへ。
今日も音が響いています。
左手でシンプルなリフ、右手は暴れて自由に激しく。
この対照的な演奏が心地いいです。
弾いてる側はとても難しいのでしょうが。
長めのブレスをとってまた続きます。
素早くなって駆け抜けます。
物陰に隠れていたネズミが見つかって走って逃げるように。
(ネズミの例えは不適当かもですが)
メロディに戻って最後が見えてきました。
繰り返されるとキーが高くなります。佳境です。
終わってほしくないけど、見せ場です。
最後、この曲独特の、カーテンが流れるように連続する音。
終わってしまいました。
MC
・ちょうど台風が来てるんですね。台風の中でのライブ。一生忘れられないライブになるでしょう。帰るころには風で飛ばされて何もなくなってるかもしれませんよ。じゃあ今日は朝までやりましょうか!・・・適当なこと言ってますが。
・白寿での2日目。明日もここでファンクラブの方たちのピアノ発表会があるんです。全員が僕の曲を弾いてくれます。こんなことしてもらえるピアニストって他にいないでしょうね。みんな僕よりうまいんです。「そう、そういう気持ちで作ったんだよ!」と。
・よくさー、ミュージシャンが昔の曲を演奏するときに、素直にやらないときってあるでしょ?「そこ、初めの通りにやってよ!フェイクしないでよ!」っていうとき。どうしても余計なことを弾いちゃうんですよ。
・今日はもう僕は弾かないから、みなさんで感じてください(笑)
・ファンの人たちが弾いてるのを聴くとジーンとくるんですよ。僕だけですか?
・今日はガンガン弾いてピアノをいい状態にしておきたいと思います・・・そうじゃないね。明日のために弾くんじゃないね。
・今日も普段弾かない曲をやりたいと思います。もう秋なので美しい曲を。これは昨日も弾いたんですが、パット・メセニーの曲です。
2.Always And Forever
静かに、語るように弾くソルトさん。
目をつむって首を振りながら、気持ちがこもっています。
盛り上がりには思わず引き込まれ、聴かせます。
最後の一音が鳴り終わっても、余韻がたっぷり残りました。
3.Mas Que Nada
打って変わってラテンの曲。
馴染みがあり口ずさめそうなサビに体が動きます。
やっぱりソルトさんのラテンもいいなあ。
左手での低音の支えに乗って、初めは抑え気味?だったソルトさんも立ち上がったりしています。
足ではステップを踏み、たくさんの音を刻みます。
すごい!攻めてます!
足をバタバタ鳴らしながらせり上がり。
ここから入るメロディがまた効いています。
最後に向けてちょっとくすぶりながら、大きく強く盛り上がって、急にクールダウンして、「ピッ!」というかわいい一音でエンド。
思わず笑みが出ます。
MC
・僕はドラマー志望だったんです。スタジオにコンガがあれば叩いてしまいます。
・ドラマーになるには手が小さくて。ピアニストとしても小さい方なのに。TOKUは手がでかいですよ!あんなにでかいのにフリューゲルホーン吹いて歌まで歌っちゃったりして。もったいない!(笑)
・いつもスタンダードを弾くことがないので、今日は挑戦します。
・えー、業務連絡です。水を持ってきてください。次の曲が終わってからでいいですから。
・(スタッフがすぐにペットボトルを持ってくる)あ、どうもありがとう、と受け取り深々とお礼。スタッフが帰るまでお礼。一口飲んでから・・・
4.I Can’t Get Started With You
スローに。一気にバラードの雰囲気に変わります。
伴奏は少しだけ。右手が歌っています。歌い上げています。
主張してくる左手。でもまた抑えられ主役は右手です。
前にも増して力強く歌います。
クールダウンすると代わって響き渡るきれいなメロディ。
そして静かにエンド。
昨日は普段弾かない曲の日だったので今日は馴染みの曲の日かなと予想していたのですが、どうやら違ったようです。
ぶっちゃけ、どっちでも楽しめるのでいいんですけど。
5.Keep Smiling!
こういう懐かしい曲が今日も登場してきました。
しっかり、くっきりした音が響きます。
シームレスで滑らかな音の運び。
手を叩き、ステップを踏み、時折うなり声。
ソルトワールドです。
音の切れ目がありません。
ちょっとコケティッシュなフレーズもあり。
スローにもなったりして、次はどう弾こうか、どう遊ぼうかといたずら心?が垣間見えたりして。
と思っているとラテンが混じってきました!楽しい!
全然違う曲になったり、また戻ってきたり。
また違うところに行って、ひとしきり盛り上がって、また帰ってきました。
とうとう最終パートに入ったようです。
リピートされるメロディ。。
でもすぐには終わらず、いろいろ道草?しつつ、エンド。
ノってますねえ、ソルトさん!
MC
・若いときに作った、まっすぐな曲です。今はこういう曲は作れないかもしれません。やっぱり作れるときに作っといた方がいいね。
・次が一部の最後の曲になります。どんな感じでいきます?ラテンで楽しくいきます?えーと、今、何弾いたっけ?(笑)
・最近よく弾くのがパット・メセニー。「Better Days Ahead」という曲はコードがどんどん変わっていくんです。ずっと弾いてると終わらない・・・。ボケ防止にいい曲です(笑)
・ピアニストはボケないんですよ。ずっと指を動かしてるから。だからぜひみなさんも家に余ってるピアノがあれば・・・売ってください・・・違うね、弾いてみてください。
6.Better Days Ahead
メロディアスな曲。ここでもピアノが歌っています。
シームレスに弾き上げています。
楽しそうなソルトさん。
最後は笑ってエンド。
締めの「ポロン」という音が何ともおしゃれでした。
(18:58~19:14 休憩)
7.Happy-Go-Lucky
ソルトさんがピアノのあちこちを叩いて音を鳴らしています。
やがてこの曲へ。
あっと思いました。とっても珍しい!ライブで聴いてたとしても10年以上前のはずです。ましてソロでなんて、初めてです!
私がソルトさんの存在を知り、興奮して買って、半年間四六時中ヘビーローテーションしていたアルバム「SALT III」の曲。その中でも思い出深い曲です。
バンド編成用の曲がソロでどうなるのか。
具体的にどうなったのかはうまく書けませんが、ソロでもいいです!
展開部は「そう弾きますか!」という箇所もあり「そこにこだわるんですね!」というところもあり。
盛り上げ方もオリジナルとは違った感じ。
メロディも弱くなったり強くなったり、やさしいソルト音が満載。
原曲での最後のオーケストラでの広がりのところは、ステップを踏みながらの熱演です。すごかった!
そして低音でくすぶりながら、また復活!
エンドレスで続きそうな勢いでした。
MC
・この曲は懐かしかったです。バンド以外でやったのは初めてじゃないかな。
・次はバラードです。ヨルダンのジェラシュというところの遺跡の上で演奏したことがあります。空気がスーッとしててとてもいい所でした。演奏中にコーランが町中のスピーカーから流れてきてみんな帰っちゃったんですよ。コーランの音が回ってるんです。石が敷いてあるから響くんです。それが終わったらみんな戻ってきて。それなら先に言っといてよ!って。
8.Jerash
昨日この曲を聴いて、いい曲だなあと改めて思っていたところでした。
今後のソロライブでたびたび聴けるようになるかもしれませんね。
イントロがやさしく流れます。
そこにはっきりとしたメロディ。
きれいな曲。白寿でいちだんと映える曲です。
強くなってから一旦ダウン。
長い間があってメロディに戻ります。
なんか、素朴な風景が浮かんできそう。
情感が込められ盛り上がって、また波のように引いていきます。
最後はキラキラした音でエンド。
空気がスーッとしていた、というのが伝わってきます。
最後の音が鳴り終わっても余韻が残り、拍手が起きるまで間がありました。
みんな息を飲んで聴いていました。
MC
・昨日の握手会でオスカー・ピーターソンの「自由への賛歌」のリクエストをもらいました。小曽根さんとのコンサートで一度弾いたことがありますが、大きな曲なのでなかなかおいそれとはできない曲です。
・黒人であるオスカー・ピーターソンはやっぱり僕たちとは自由への意識が違います。
・今日はこないだのヨーロッパ・アフリカツアーのときのスタッフも会場に来てるんですが、日本にいるとやはり違います。
・僕たちが自分のこととして感じるために弾こうと思います。
9.Hymn To Freedom
顔を上に向けて気持ちを込めて弾くソルトさん。
力強い音です。
その強さの中にやさしい音が混じっていて、ホロッときてしまいました。
改めて、いい曲ですね。安直な言い方ですが。
自由を勝ち取った人たちの気持ちの一端に触れられた気がしました。
いろんな人のこの曲をもっと聴き込んでいきたいです。
MC
・次は即興演奏してみます。どう弾くか何も考えてません。外は台風ですね。これからピークが来るよ。今感じてることを弾きたいと思います。みんなの気を感じながら。
10.即興演奏
何かが感じられて伝わってきますが、それは何でしょう?
やさしい雨が降っているような。でもどこか不穏っぽい。
きれいな五月雨(←秋なのに変ですが)、やがて低音が暴れ出します。
激しい音。黒い雨雲のイメージ。風が回っています。
破壊的になってきました。
高音から低音までシームレスな音。
たくさんの音が生み出され、やがてピ、ピ、ピ、ピ、と止まりかけます。
ネズミがすばしっこく走りました。
教会の鐘が鳴っています。
「Passage」の曲が静かになるような感じでクールダウン。
以上、私のイメージだけで書きました。バラバラですね。
MC
・どこ行っちゃうんだろ!という演奏でした。
・最近クラシックが好きになってきました。クラシックって人によっていつグッとくるかですよね。もちろん一生好きにならない人もいますし。
・なのでジャズピアニストと言われても違うし、ダジャレピアニストでもないし(笑)スタジオパークに出てからそういうレッテルを貼られてるんですよ。台風が来てるのにダジャレ言ってる場合じゃない!もう8時でしょ。きっと屋根飛んでますよ。
・次はガレスピーの曲で、ラテンでよく弾く曲です。
11.Manteca
真っ正面からラテンです。こういう直球も久しぶり?
始めから飛ばしています。響く低音。
リズムが心地いいです。
切れ目なくソルトさんの音が並びます。
シンプルなリフ。低音から高音への流れ。
低音でくすぶりながら、一方で高音がピ、ピ、ピ、と鳴ります。
盛り上がってメロディに戻り、落ち着いたと思ったらまた盛り上がって。
急に終わりました。
アンコール
MC
・今日は何か特別な気持ちがします。珍しい曲ばかりやりました。
・今年も12月23日に「Saltish Night」があります。来てくださいね。ヤイコは子どもを産んでから初めてのステージになると思います。舞花、スキマスイッチの大橋卓弥くん、本田雅人さん、それと知らない人(佐藤竹善)も出ます(笑)
・来年1月に渋谷区の新しいホールでコンサートをします。(2011年1月29日、渋谷区文化総合センター大和田 文化ホールさくらホール)「文化ホールさくらホール」・・・なんでホールが2つあるんだ?ここにはみんな3人ずつ連れて来てくださいね。ダジャレ満載でお送りしますから・・・いい加減なこと言ってますが。
12.Forest
これも「SALT III」からの曲。
数年前のソロではよく演奏されてたのですが、最近では久しぶりです。
この曲の森の空気感、ソルトさんの表現方法にいつも圧倒されます。
短い即興、森の中にいるイメージ。そしてメロディへ。
2回目のメロディは強さを含んでいます。
でもやさしい音もあり。
自然のたくましさと木々の安らぎ。
力強く展開していきます。
ちいさくなって、また強くなって、また小さくなって、再びメロディへ。
間がとられて繰り返されるメロディ。
今度はやさしく流れます。
いろんな森の姿を見せてくれるこの曲。
余韻に浸りながら、最後の一音まで聞き逃しませんでした。
ダブルアンコール
MC
・ホントに!?どうもありがとう。一晩中やりましょうか。
・何しよう?これにしようかな。アップテンポのジャコ・パストリアスの曲です。
13.Three Views Of A Secret
ソロアルバムからの曲。
これも久しぶりと言えば久しぶり。
軽い感じで進みます。
間をためながら、フランクなメロディ。
左手のシンプルなリフが心地いい。
最後に向けてメロディの繰り返し。
そのたびに強くなったり弱くなったり強くなったり・・・。
もうエンドレスです。ホントに一晩中?(笑)
最後は強いフレーズがさらにさらに大きく強く!
もう圧巻のプレイでした。
(20:31)
今回の白寿ホールはいつもとは趣が変わって、普段聴かれない曲づくしの2日間でした。
貴重な空間に身を置くことができてよかった、(台風に遭遇しても)遠征した価値があった、というのが第一の印象です。
そして、塩谷哲というピアニストを応援しはじめて随分経つのだなあと実感。
これまでもいい曲がたくさんあり、その曲たちをソルトさんが遠ざけることなく、今のエッセンスを加えて再演してもらえたことに深い喜びを感じました。
これが1年後、2年後、数年後だとまた違った感じになるのでしょうね。
その違いがなんとなくでも感じられるようなリスナーでありたいです。
終わって外に出ると、台風は過ぎ去り雨は上がっていました。